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名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)1492号 判決

原告 倉知治

〈ほか一名〉

被告 孔順智

右訴訟代理人弁護士 鶴見恒夫

同 樋口明

被告 株式会社サン建設

右代表者代表取締役 澤井淳治

〈ほか二名〉

被告 野田陸一

右訴訟代理人弁護士 鶴見恒夫

同 樋口明

主文

一  原告倉知治の訴をいずれも却下する。

二  原告株式会社倉五の本訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

《省略》

理由

一  原告倉知の訴について、職権により、その当事者適格を検討する。

1  原告倉知が、名古屋地方裁判所一宮支部昭和四七年(フ)第五、第一一号破産申立事件において、昭和四八年四月一八日、破産宣告を受けたことについては当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右破産手続が現在に至るも破産廃止ないし破産終結のいずれにも至らず、破産手続が続行中であることが認められる。

2  原告らは、右破産宣告が無効である旨主張するが、破産裁判所の決定である破産宣告は、法に定める不服申立によりこれが取消されない限り、宣告と同時に有効に成立するものであって、当然無効の観念を入れる余地はない。したがって、原告らのこの点に関する主張を検討するまでもなく、右破産宣告を無効なものとすることはできない。

3  原告らは、次に、復権の主張をするが、原告倉知が破産法三六六条の二一、一項四号により当然復権しても、なお破産手続が終了していないときは、破産財団に属する財産についての管理処分権は依然として破産管財人にあるものであり、原告倉知はこれが管理処分権を喪失したままである。

4  そして原告倉知の本件訴は、同原告が自己所有であるとする本件土地ないし本件元土地についての権利の主張であるから、破産財団に属する権利であることは明らかであり、同原告には当事者適格を欠いている。

よって、原告倉知の訴えは、いずれも不適法であるから、却下をまぬがれない。

二  原告会社の請求について、職権により、その代表者代表取締役倉知治の代表権限について検討する。

1  原告会社の本訴における訴訟行為は、代表取締役の一人である倉知治がこれをなすものであるところ、同人は、前示のとおり、昭和四八年四月一八日に破産宣告を受けその破産手続がなお続行中の者であるが、弁論の全趣旨によれば、破産宣告後詐欺破産の罪につき有罪の確定判決を得ることなく一〇年を経過し、破産法三六六条の二一、一項四号により当然復権する事由を有するものである。

2  ところで、昭和五七年一〇月一日施行の改正商法(昭和五六年法律第七四号)によって、商法二五四条の二、二号は、破産の宣告を受け復権せざる者は取締役たることを得ずと定めるが、右は、同法によるまでもなく、先例により同旨の取締役欠格事由が当然のものとされてきたものである(参照最判昭和四二年三月九日、民集二一―二七四)。したがって、右改正商法施行附則八条の定めにもかかわらず、破産者で復権を得ていない者は、登記簿上その旨の記載がなされていたとしても、取締役として在任する者とは言えないのである。

3  原告会社の代表取締役とされている倉知治は、登記簿上昭和五六年八月一八日に選任されたとされているが、右欠格事由によりその選任は無効であり、昭和五七年一〇月一日の改正商法施行当時取締役に在任する者とはいえず、かえって右附則八条を根拠に、取締役の地位を存続させることもできない。そうであれば、倉知治は、昭和五八年四月一八日に当然復権したとしても、これまで原告会社の取締役ではなかったのであるから、その地位を取得するためには、右復権後に新たな選任がなされなければならない。しかるに、右取締役選任については、何ら主張、立証がない。

4  そうであれば、原告会社は、倉知治にはその代表権限がないのであるから、同人の行為によって自らの訴訟行為をなしたものとすることができないので、原告会社の本訴請求については、その請求を理由あらしめる事実の主張が存在しないことになる。よって原告会社の本訴請求は、これを認めることができないので、いずれも棄却を免れない。

三  以上のとおりであるから、原告倉知の本件訴はいずれもこれを却下し、原告会社の本訴請求はこれをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司)

〈以下省略〉

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